8月7日(木)、株式市場が締まった15時頃に、株式会社資生堂の2024年度上半期決算が発表されました。同社の決算期は次の通りです。
- 12月決算を採用(決算年度は1月-12月)
- 上半期決算は2024年1月から6月の第1四半期(Q1)と第2四半期(Q2)を含む
中長期的な課題
細かな決算情報を見る前に、まずは大きな流れについて。
それを成し遂げるべく、同社は2030年までにコア営業利益率15%を達成することを悲願としています。
(コア営業利益=本業の売上から費用を引いた利益。工場の売却費用や災害損失などの特別費用は含まない)
直近ではコロナ禍前の2019年に、過去最高益である売上1.1兆円、コア営業利益率10.1%を叩きだしました。しかし、コロナ禍で外出機会の減少によるダメージを受け、前期2023年度は、売上高が1兆円割れし、コア営業利益率は約4%と苦戦を強いられています。
そこから回復すべく、現在は3ヵ年の中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」の2年目を歩んでいます。今期2024年度の目標数値である、売上高1兆円・コア営業利益率6%は、悲願達成への着実な一歩として描かれています。
今回の注目点まとめ
・実質成長率はマイナス
・11月末に新戦略を発表
通期見通しの据え置きは強気か
一言でいうと、今回の決算は「決して良くはなかった」です。
理由は下記のとおりです。
- 売上高は通期見通しに若干未達
- コア営業利益は大苦戦
しかしながら、資生堂は通期見通しについて、売上・利益ともに通期予想を据え置くと発表しました。これは通期目標達成への強気な姿勢の表れとみています。
ただ市場の目は冷たく、決算発表後の8日・9日を通じて、株価は約1,000ポイント強の大幅な下落をしました。
細かく見ていきましょう。
実質成長の停滞
売上高
まず売上高を見ると、円建てベースにおいては、前年同期比で上昇しました。(5,085億円、+2.9%)
一方で、実質成長率では前年同期比でほぼ横ばい(-0.5%)となりました。これは、円安による一時的な利益増加の影響に加え、昨年12月に米国で買収したDDG社による増加分を含めない場合、実質的には昨年よりマイナス成長してしまっているという状況です。
コア営業利益
2024年通期見通しでは、コア営業利益の通期目標550億円のうち、4割を上期、6割を下期に見込んでいました。(上期220億:下期330億)
しかしながら、上期の結果は193億円、前年同期比-31%と厳しい結果になりました。
主要な原因は、次項記載のネガティブなセグメントの影響によるものですが、その上で通期見通しに維持したことは、その本気度がうかがえます。
セグメント別のパフォーマンス
資生堂には6つの事業セグメントがあります。
・中国
・アジアパシフィック
・米州
・欧州
・トラベルリテール(免税店ビジネス)
上半期の結果は2分されました。
ポジティブセグメント
日本、欧州、アジアパシフィック
- 日本
(株)資生堂の中期戦略とは別に、資生堂ジャパンでは「ミライシフト NIPPON 2025」という経営改革プランが走っています。その中でコアブランドとなる「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「エリクシール」を中心に力強い成長をしており、加えて、ファンデ美容液「SHISEIDO エッセンススキングロウ ファンデーション」の新領域も好調です。ダメ押しには、インバウンド旅行者数もコロナ禍前を上回り、恩恵を受けています。 - 欧州
今、最も同社を牽引しているのは欧州です。今年3月には、欧州の新CEOにアルベルト・ノーエ氏が就任をしました。全カテゴリーにおいて成長を遂げていますが、特に「narciso rodriguez」をはじめとする、フレグランスカテゴリーが好調なのは、特徴的です。 - アジアパシフィック
台湾を除く主要地域が好調で、特にタイが同社のアジア事業を牽引しています。アネッサなどのブランドが好調です。
ネガティブセグメント
米州、中国、トラベルリテール
- 米州
Q2では、一時的な生産調整があり、全体の売上・利益に影響を及ぼしました(1. 原材料調達遅れ 2. ERPシステム導入の躓き による)。この問題は既に正常化されたとのことです。米州は前期に年間を通じて+15%の成長を記録しており、2024年Q1でも前期比+9%を記録していたヒーローセグメントです。下記回復が見込まれており、米州の回復が大きな役割を果たすことは間違いないでしょう。 - 中国
資生堂といえば、日本・中国の2本柱です。この2セグメントで売上の半分を占めています。数ある日系企業の中でも、中国の市場動向に業績が左右される企業として有名なほどです。そしてご存じの通り、今中国の景気は悪く、節約・貯蓄志向の高まりが影響しています。しかしながら、ハイプレステージの領域は微増と健闘しています。(クレドポーボーテ、NARS) - トラベルリテール
空港・市中免税店などでの化粧品・フレグランスの販売事業を指します。こちらも中国景気のインパクトを受けます。具体的には、中国人旅行者数の減少および消費傾向の変化によりマイナス成長でした。一方で、日本市場では全体のインバウンド旅行者数は増え、2倍を超える成長を遂げました。
以上、全体を見たときに、上半期の結果としては、実質-0.5%の着地となりました。
11月末に新戦略発表予定
さて、今回の決算説明でサプライズであったのが、11月末に新事業戦略を発表する予定であることが公開されたことです。
2025年には、藤原現COOが新CEOに就任予定となります。そのため、新事業戦略は彼の方向性を示す意向表明と見ることができます。
先述の通り、今期は中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」の2年目を歩んでいますので、新戦略の発表は、現行の中期戦略とどう紐づいていくのか、注目のポイントです!